一を殺せば一は生きる。
 そんなどうでも良いフレーズが頭の中をよぎったとき、目の前には君がいた。
 至極どうでも良い疑問。
「もし君が死ねば僕は生きられるって言われたら、君は死ねるかい?」
 案の定、君はきょとんとして、いったいなにがいいたいの、と聞いてきた。
 君は可愛いね。ずっとそのままでいてよ。
 僕がそう言うと、君はますます分からないという顔になった。
 ねえどうしたの。なにがいいたいの。ぼくになんていってほしいの。ねえだまってないでこたえてよ。
 目を細めるだけの僕に向かって、すごく泣きそうになっている君は可愛くて、自分の兄だということを忘れそうになる。
「死ねる? 僕のために。」
 頬を両の掌で挟み、泣きそうな君の顔を無理矢理こちらに向けながら聞いた。
「しんであげるよ。だいすきだもの。」
 泣きそうになるのを必死で堪えて、掠れた声で告げる君があまりにも愛しくて。
 大好きだよ。愛してるよ。
 そう言って君に口づけをした。
 ……ばか。ぼくだってだいすきだよ。
 君の言葉が小さく部屋に響いた。





(「でも、きみはぼくのためにしねるの?」「死ねるよ。もちろんじゃないか。」)





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