じわり、と頬に痛みが広がっていく。
 殴られたのか、と理解するのにそう長い時間は要さなかった。
「ね、先輩。知ってます?」
 何を、とは聞けなかった。聞いてはいけないような気がした。
「俺ね、先輩になら壊されてもいーんスよ。」
 俺の手を自らのコアへと誘導する手つきはあまりにも優しすぎて、まるで愛されてるみたい、と少し思ってしまった。
「ほら、壊してよ。先輩。」
 傷付けて、修復不可能にして。と望むこいつが分からない。
「……ヤだ。」
 短くそう告げると、一瞬間が空いてからケタケタと笑い出した。
 笑っていても、獲物を見るようなギラギラした目は変わらない。
「分かった。俺、分かっちゃったッスよ。先輩、アンタ、俺のこと好きでショ。」
 アンタって物好きですねー。なんて笑うが、俺からすればこいつの方がよっぽど物好きだと思う。
 人を殴っておいて壊せ、だとか。でもやっぱり、そんなお前を好きな俺も物好きなんだろうか。
「でも、そんなの俺には関係ないッスもん。ほら、先輩早く。」
 仕方なしにコアへと爪を立てて、カリカリと傷を付ける。
 小さな傷がいくつもできて、コアの一部だけが段々と白くなっていく。
 それを見て満足げなこいつは、囁くように俺に言った。
「先輩、この傷……何だか分かります?」





(この傷は所有印)





H22.2.15