キスの合間に首の神経回路を撫でるのが、いつの間にか癖になっていた。
普段マフラーで隠されているそこを撫でる事ができるのは、精々こんな事をしている時しかない。
胸元に寄せられている手が、ギュッと握られたのが分かった。
唇を離せば、名残惜しそうにこちらを見られた。
その視線がひどく扇情的で、背中に回した腕に力を込めてみる。
緩く吐き出された息の理由は分からないし、分かろうとも思わない。
胸に巣くう罪悪感に意識がいけば、ごめんな、と零れる。
上げられた瞳は涙で潤み、もう一度、ごめん、と謝ってから強く抱きしめた。
腕の中で聞こえた呟きには気付かないふりをした。
好きでござるよ
言葉にしてはいけない言葉があると初めて知った。
好きだとか愛してるだとか、そんなものは人間のみに許された言葉ではないのか。
ロボットの感情など、突き詰めれば唯のデータでしかない。
至極不確かなそれを言葉にして、相手に淡すぎる期待を持たせるくらいなら、言葉になんてしなくて良い。
ごめん。頭上から降ってきた言葉に驚き、顔を上げると、悲しそうな顔が見えた。
ごめん。もう一度聞こえたそれが頭の中を巡っているうちに強く抱きしめられた。
小さく呟いた言葉は、やっぱり聞こえなかったらしい。
嘘吐き者と正直者
(言葉にしちゃいけないんだけど)
H22.2.6