さんかっけいのごうどうじょうけんをこたえなさい。聞かれたって、そんなの覚えて一体どうなるんだ。むしろ俺が聞きたい。ああちくしょう面白くない。
何故か席の近い夏にチラリと視線を送ると、目を合わせてお手上げだというように両手をヒラヒラと振った。解答用紙は真っ白だ。一問目は三角形の内角の和なんだから簡単だろうが。
不本意ながらも一通り解いてから、見直しなんて面倒な事はしないで机に突っ伏して寝る。先生の視線が妙に痛いが、何も悪い事はしていないと信じて寝る。眠いからってのもある。
「米原、起きなさい。」
歩いて来れば良いものを、わざわざ教卓から言ってくるのが何となく気に食わなかったから、一瞥してからまた突っ伏してやった。立ち上がってこちらに来もしない。流石は教師だ、と胸の内で皮肉ってみた。
外は腹が立つほど晴れていて、寒い中走っている音が微かに聞き取れる。確か女子はこの時間体育だ。なら萌も走っているのか。それとも生理だと嘘を吐いて見学しているか。そっちにしろつまらないだろうな、などとどうでも良い事を考えてみる。
あと五分。些か苛立ちの含まれた声音でそう告げられた。ばっちり目が覚めてしまったので仕方なしに見直しをするが、書き間違いなんて一つも見当たらない。まあこれで書き間違いが見付かるなら、最初から書いておけば良かったと多少の後悔をするだけで、絶対直さない。
さんかっけいのごうどうじょうけんをこたえなさい。違う存在なのに全く同じだなんて。少しの羨ましさを覚えながら、俺は解答用紙を提出した。
とある平日の三時限目数学教室にて
(「俺白紙やねんかー。」「……しらね。」)
H22.1.19