斬る。斬り倒す。  俺の前にあるのは生命を持たない絡繰りで、俺の後ろにあるのは元はそれだったがらくただけだ。
 周囲に生命反応などない。俺を含め、皆造られた「物」に過ぎないからだ。生命など初めから持ってはいない。
 斬る。飛び散るオイルが手に、足に、身体中にと掛かるが、気にする余裕はない。
 倒れる瞬間に、皆俺を凝視する。その目に映るのは俺に対する恨み、怨み。
 それで良い。俺を憎め。心の底から嫌悪すれば良いさ。
 全ての敵を倒した後、屋外へと出てマスクを外す。冷たい外気が心地良い。
 溜め息を一つ吐き、不気味なほど大きな満月の所為で星一つない夜空を見上げる。
 身体中にこびり付いたオイルが乾いてギトギトしてくるのも構わず、俺はその場に座り込む。
 黒く染まった手を何とはなしに眺めながら、思い出すのはあいつだ。
 こんな俺を見たって、決して軽蔑などしない。あいつだって同じ戦闘用なのだ。
 ああ、会いたい。今すぐ会って抱き締めたい。あの優しい声音が聞きたい。
 大きな満月の光は、この世の全てを黒白に分けているような気がした。
 愛してる。会いたい。大好きだ。
 そっと呟いた声は月の光に溶け消え、辺りはまた元の静寂を取り戻す。
 暫くしてからマスクを嵌め直し、立ち上がる。
 後ろに転がる残骸を残したまま、俺は研究所へ帰るために歩みを進めた。
 こんな俺でも、愛し愛される権利くらいはあっても良いと思うのだ。





(明日朽ち果てても、あいつが抱き締めてくれる)





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