ふわふわした春の朝、微睡みの中。
 温かい布団から出るのがとても億劫になるそんな時間帯に、言い表しようのない甘い香りがしたとしたら、それはきっととてつもない幸せなんじゃないかと思う。
 さらさらと頬を撫でる手つきは優しくて、やっぱり俺は愛されてるんだなあって思って微笑。
 瞼越しに伝わる日の光はきらきら光っていて、一瞬どこか知らない世界にいるような錯覚に陥る。
 すっ……と親指が唇をなぞる。
 温もりの軌跡だけを残して消えてしまったそれが寂しくて、つい小さな声を出してしまった。
「……クラッシュ?」
 起きているのかと、言葉にはしないものの口調がそう物語っている。
 ゆっくりと瞼を持ち上げると、思い描いていた通りの彼がいて、俺はにっこりと笑う。
 こんな事が、やっぱり幸せなんだと思う。




(「唇さみしいんだけど。」「……仕方ないな。」)





H22.4.5