好きか否かと問われたならば、俺は好きだと即答できる。理由なんてものは至極単純。本当に好きだからだ。
 ただ、まあ、相手がそれに応えてくれるかとなれば、また話は別だ。この理由も単純なもので、相手は俺を大の付くほど嫌っているからと言う他ない。
 しかしまったく、この世には蛇嫌いが多すぎる。と、俺はサーチスネークの手入れをしながらひっそりと思う。どこかで兄弟機が三味線を弾いてる音がする。
 俺の思考を読み取ったのか、手にしていたサーチスネークが頭をゆるりとこちらに向ける。しかも、何とも言えないような情けない表情というオプションをつけて。
 そいつに大丈夫だと伝えて前に向かせる。口からはみ出ている舌をつついて戻させながら、一体何が大丈夫なんだと溜め息を吐きかけて堪える。
 外を見ると、暖かそうな日光が燦々と降り注いでいて、何だかこのまま寝てしまいたくなった。

 ある日の夢の話だ。
 俺は会議の書類を作るためにパソコンに向かっていた。相変わらず三味線の音が聴こえる自室で。
 カタカタとリズム良く響くキーボードの音を聴くと同時に、パソコンの唸るような音が聴こえる。
 そろそろ寿命かな、と思った瞬間にフリーズし、勝手に落ちてしまった。電源を入れようにも、うんともすんともいわない。
 バックアップを取っていたかも定かではなく、やる気など完全になくしてしまった俺は、もう諦めて寝てしまう。
 朝起きてみれば、本当にパソコンは壊れていた。

 ぱこりと頭を叩かれて目が覚めた。気が付けば、高い位置にあった太陽は今にも沈もうとしている。
 俺を叩き起こした当人は、さも当然といった風に立ち去ろうとするので、無理やり引き止めた。
「何だ一体。早く用件を言え。私は忙しい。」
「いやいやいや。ちょっと待て。何か用かと聞きたいのはこっちだっつーの。何でここにいる、どうやって入った。忙しいなら来んな。」
 取り敢えず突っ込み所がたくさんあったので、いまいち回転しない頭ではあるが突っ込み倒した。
 相手は心底面倒臭そうな顔をして、嫌々であるという事を隠そうともせずに口を開いた。
「私自身は用はない。お前の間抜け面を叩きたかった。扉は壊した。呼べと言ったのはお前だ。」
 成程、確かに扉は煙を上げながら時折小さな火花を散らしている。これ怒られんの俺なんだけど。という呟きは華麗にスルーされた。酷い。
 だがしかし。呼べ、と俺がいつ言っただろうか。思い当たる節がない訳ではないのだが……
「パソコン直った?」
「分かったらさっさと来い。」
 手を振り払われ、スタスタと先に歩かれ、ああなんて俺は不憫なんだろうと思う。柄にもなく泣いてしまいそうだ。
 まあ実行したところで「キモイ」の一言と共にグーパンチが飛んでくるのは目に見えているから堪える。
「そうそう。次も私を呼べよ。」
 間抜けな声で返事をすると、意地悪そうな声が届いた。

「お前をいじるのは私の特権だからな。」





(い、いじる?! え、ちょ、いじるって?!)





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