初めて会った時に言われた一言が、実は今でも思い出すたびにショックを受けるなんて言ったら、あんたは迷うことなく俺のことを笑うだろう。それも、とびきり嘲るような、意地の悪い笑みを顔に浮かべるはずだ。
 さて、それを知られたからと言って何か俺に特別不利なものをもたらす訳ではないので、大したことではないと一蹴されてしまえばそうなのだが、それは少し違うような気がする。
 たとえば。ダイエットをしている女に向かって(そうそう、可愛くないというのが条件だ)「そんなことをしても男は寄ってこない」と言って、さてそれが正しいだろうか。倫理的には間違いなどないだろうが、現実はそう容易く物事は進まないのだ。ロボットである俺が言うのもなんだが、世の中には起こり得る奇跡というのが事実存在するのである。
 ここまで結論づけて、さてお前は何が言いたいのだと聞かれれば、俺は少し躊躇いを見せた後に答えることを約束する。
「あの人は、初めて会った時のことを覚えてるかが知りたい。」
 はてさて、一体どうなるだろうか。

 じっとり、少し睨め付けるように見つめてやれば、露骨に嫌そうな顔をこちらに向けてくる。確かに睨んだように見た俺も悪いのだが、その顔はないんじゃないかと思うほどに嫌そうな顔だった。
 光が乱反射して、きらきらと輝く睫毛に縁取られたアイカメラはじっと俺を見て離すことはない。こちらが見ているのだからそれも当然なのだけれど、この俺を嫌いな人を俺は好きな訳でして。
 なあ、といつもより優しく(少なくとも俺にとっては優しく)声を掛けて、続きを口にはせずにまた黙り込む。言いたいことはもちろんあるのだが、言ってもまあ答えなど返ってこないだろうという思いと、もしも帰ってきたらどうしようかという思いとで、臆病な俺は続きが言えずにいる。
 なんなんだまったくはやくいえばいいだろうわたしはおまえのかおなどいちびょうもみていたくはないんだ。
 なんて酷い言われよう。だがしかし、好きな人の言葉というのはなんだって聞き入れてしまうものなのである。まったく、人間は不思議に造られているものだ(人間じゃない? そんなの知ったことか!!)。
 ここまで言われれば言わざるを得ないので、渋々といった風を装って口を開く。
「あんたは、なんでそんなにも俺を嫌うのかなーなんて思ってンだよね。」
 ねえどうなのさ、ジェミニちゃん? そう続ければ、返って来るであろう返事が予想通り返ってきた。
「蛇が嫌いだから、お前も嫌いだ。それ以外に理由などない。」
 まあ、至極当然な理由ではある。そしてそれと同時に、俺をこの上なく凹ませる理由でもある。
 とてつもなく大きな溜息を吐いたあと、そんならもういいわと言って手をヒラヒラと振る。そのままクルリと後ろを向いて歩き始める。嫌われてるのも、慣れるしかないか。そう思った時だった。
「ああ、一つ忘れていた。」
 何なんだまったく、さっきまで一秒も見ていたくないと言っていたのはあっちなのに。首だけを後ろに回すと、そっぽを向いたジェミニの後頭部が見えた。
「お前の嫌いな所はな、ほぼ全部だぞ。」
「良いか、だからきっちり今聞いておけ。」
「聞き逃したとなるともう二度と口も聞いてやらないからな。」





(お前のその目だけは好きだ)





H22.2.26