別に、嫌いな訳ではない。ただ言葉に出来ないだけだ。臆病と言われたらそれまでだけど。理由もなしに会いに行けるほど神経図太くないものだから、仕方ない。要するに、理由さえあればどれだけそれが下らなくても会いに行ける。
「秋。ジャージ貸して。」
 だからこうしてわざと物を忘れる。

 得に嫌われているんじゃないって事は分かってる。きっと、恥ずかしいだけだって事も。だからって全然平気な訳じゃない。多少は会いたいよ。でも、理由もなしに会いに行ったら迷惑かな。考え出したら止まらないけれど。
「秋。ジャージ貸して。」
 最近頻繁に会えるのは少し嬉しい。

 ふとした瞬間に、フワリと香る微かな匂い。ああ、あいつの部屋の匂いだと思ったら、急に恥ずかしくなった。
「なあ、どうしたん? 顔赤いで?」
 あいつに似てる従兄弟が声を掛けてくる。ドキリ。心臓が跳ねるのが、分かった。
「……ちょっと休む。」
 貧血だと嘘を吐いて、体育館の端で一緒に休ませてもらう。好き。大好き。伝えたい相手はここにいない。

 ジャージの名前が違ったから一目で借りたんだと分かった。それに、顔が赤らんできたのをはっきりと見た。
「なあ、どうしたん? 顔赤いで?」
 そう聞けば、急に顔を真っ赤にしてズルズルとしゃがみ込んだ。
「……ちょっと休む。」
 赤い顔で貧血だなんて、分かりやすいにも程がある嘘を吐いた彼と一緒に、体育館の端で休む。好き。大好き。伝えられないって分かっているから、余計に。





(赤らんだ顔と同じくらい真っ赤な嘘)





H22.1.24