何かが違うと気が付いたのはいつだっただろうか。
向けられる笑顔が違う。向けられる声色が違う。向けられる視線が違う。
全てが違う。
意図的に作り出した壁があることも、無意識のうちに作り出している壁があることも、それは彼女の深層心理、仕方がないと諦めていた。
意図的に作り出した壁は、いずれなくなるだろうと大して気にしていない。
ただ、無意識のうちに作り出した壁が大層厄介で、まだ誰も取り払われていないことは明白だった。
───彼を除けば。
双子の兄の彼にだけは、壁などない、本当の自分を曝け出している。
ぎこちなくない、無防備な笑顔を彼には向けている。機械的でない、穏やかな声を彼には向けている。冷たくない、明るい視線を彼には向けている。
なぜ俺じゃない。なぜだ。なぜ、なぜ。
くだらない自問自答、答えなどは出なくても良いのにあっさりと出てきてしまう。
彼女にとって、俺はただの他人余所者。だが彼は彼女にとって、唯一の片割れにして理解者。
仕方がない。
壁があるのは仕方がない。向けられる全てが違うのも仕方がない。立ち入れない領域があるのも仕方がない。
そう、仕方がない。仕方がないんだ。
自己欺瞞
(仕方なくなんかないって分かってる)
H.22.1.8