夏だろうと冬だろうと、美術部の部室である美術室は年中快適だ。
 絵や画材が傷んでは困るというので、三年程前から空調管理の設備がしっかりしてきたのだ。
 お陰で美術の授業は大人気だ、と顧問である美術の先生が言っていた。
 確かに居心地が良い。ずっとここにいたいと言うのも頷ける話だ。
「だからって、文芸部の部長がここ来て寝てて良いのかよ!!」
 一番暖房が届く席に突っ伏して心底気持ち良さそうに寝ているのは、文芸部の部長である秋だ。
 後輩(総勢十二人)は、皆好奇心に満ちた視線を秋に投げかけている。
「あの……米原先輩、この人誰ですか?」
 尤もな事を聞いてきたのは、現在水彩絵の具で絵本を描いている小倉 杏奈。
 文芸部の部誌の挿絵を描いた事もあるはずなのに知らないという事は、つまり
「今まで中川先輩が部長だと思ってました。」
 この返答も想定済みだったりするから困る。
 既に三十分程ここで寝ているこいつを、これ以上放置するとどうなるかは目に見えている。
 萌を含む部員(総勢十三人)に、今日はここまでと伝えようとした時だ。
「寝てる人いるし、今日はここまでー。楓ちゃんと春子ちゃんの片付けが終わったら皆帰ろうね。」
 萌がそう言ってくれた。すごく呆れた表情を秋に向けながら。
 名前を呼ばれた成宮と平泉が急いで片付けを始める。
 成宮は油絵、平泉はタイルを貼ってのモザイク画をしていた。
 十分程して片付けの終わった二人とその他十人を連れて萌は先に帰った。
 皆が階段を下りたのを確認してから、俺は幸せそうに涎を垂らして寝ている秋へと向き直った。
 そして、(何度目かは分からないが)頭を叩くためにスリッパへ手をかけた。





(「起きろバカ!!」「ふぇ、え、何? UFOでもきたの?」「……アホか。」)





H22.1.28